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「俳優も映画祭を有効に使えばいいと思う」
―― 松崎まことインタビュー

映画活動家・放送作家の松崎まことに
インディーズの現在地や映画祭について訊く


―― 映画業界と深く関わるようになったきっかけは?

松崎まこと もともと映画をやりたかったんだけど、放送作家業がいつしか生業になっちゃってたんです。そんなある時、「映画検定」をラジオで取材することになって。取材をするなら自分が受けてみたほうが面白いだろうと、主催の「キネマ旬報」に相談したんです。それで試験の日は、試験を受けた足でマイクを持って門のところで、他の受検者にインタビューしていました。

―― 試験は合格したんですよね?

松崎 受かりましたね。当時は2級が受からないと1級を受けられなかったんですよね。で、もう番組と関係なかったんだけど、2級が受かっちゃったから1級をとらないと気が済まなくて1級を最高点で受かったんですよ。「キネ旬」としても映画検定をPRしたいということになって、映画ファンで1級を持ってる人で身元がはっきりしてて、ちゃんと受け答えもできるからってことで、取材や合格体験を話す講座に引っ張りだされたんです。それをやってる内に2007年に「田辺・弁慶映画祭」が始まるわけです。「田辺・弁慶」では、「キネマ旬報」と提携して、「映画検定」1級を持っている人の中から20人、審査員を選出したんですけど、僕はその中のひとりに選ばれました。「田辺・弁慶映画祭」では、その“映画検定審査員”を1回目と3回目と4回目にやって。2、5、6、7は自費で遊びに行った感じですかね。

―― 放送作家から映画業界にシフトしていくのはその頃からなんですか?

松崎 ボクが40代後半という年代になったのが大きいんですが、2010年ぐらいからテレビもラジオも業界的にどんどん厳しくなってきて。で、色々逡巡していたら、そのちょっと前に潰れた「シネカノン」にいた名物宣伝マンとTwitter上で再会したんですよ。それでやり取りしていたら、「『恐怖』っていう高橋洋さんの監督作の宣伝を手伝ってるんだけど、Ustreamで仕掛けたいので、放送作家として知恵を貸してくれ」って言われて。それがきっかけで、なんとなく映画業界の人と近くなっていったんです。で、決定的だったのが、2012年春にライフワークだと思っていたラジオ番組を予算カットでクビになったことですね。その直後にマスコミ試写で、韓国映画の『サニー 永遠の仲間たち』を観るんです。とにかく、メチャメチャ感動して、マイ フェーバリットみたいな作品になっちゃって。ところが、この映画が公開すると、劇場で大コケしてるって話になって。「こんないい映画がこけるのは勿体ない! 許せない!!」って話になって、その頃出演するようになっていた「WOWOWぷらすと」というネット番組で、みんなで『サニー』を盛り上げたんですよ。マキタスポーツさんとかプチ鹿島さんとか、あとは漫画家の花くまゆうさくさんとかリサーチャーの松谷創一郎さんとかが出て。その流れで配給会社の人とも仲良くなって、トークに呼ばれるようになったんです。熱く思い入れた映画があると、例えばDVD化のタイミングがあったり、WOWOWでの放送のタイミングがあったりで、だいたい公開から1年は、その映画について喋れるなって、わかったんですよ。「WOWOW ぷらすと」では、元は「田辺・弁慶映画祭」で知り合いになった松崎Bくん(松崎健夫)との「松崎ブラザーズ」ってユニットも生まれたりして。ちょうど同じタイミングで、新作映画のことを「bayfm」や「FM栃木」でも喋るようになったんです。

―― 松崎さんは「映画活動家」と名乗っています。

松崎 2014年だったかな。なんかもう「映画検定1級の放送作家」っていうのも変だなって思ってたんですよ。

―― 映画評論家ではなく映画活動家なんですね。

松崎 僕は放送作家時代から町山智浩さんの番組の構成やってて、変な言い方ですけど、勝手に師匠だと崇めています。この人が“映画評論家”って名乗ってて、しかも相方の松崎Bくんも“映画評論家”って名乗った時に、この人達のレベルでいくと、僕には“映画評論家”は無理だ、と。 で、僕の特性ってなんだろうって思った時に、2014年当時は友達の映画のプロデュースをやっていて、「田辺・弁慶映画祭」もその年の「第8回」から司会をやることが決まったんですね。「映画祭」の司会もやるし、ラジオで映画を紹介するし、映画も作っている。映画全般で活動してるってことで、“映画活動家”って、2014年の夏から名乗るようにしたんです。今は、一応、“放送作家”と、“映画活動家”と両方を名乗ってるんですけど。

―― 今いろいろ活動されてる中で、インディペンデントの映画に関わることが多いと思うんですが、インディーズ・シーンはどのように変わってきましたか?

松崎 インディーズ・シーンは2010年代にデジタル革命があって、作り手の敷居がすごく下がりました。カメラの機材も手頃になるし、編集もパソコンでできる。そうするとプロとそんなに機材が変わんなくなっちゃう。あとノーライトでも映画を撮れるようになったじゃないですか。本当にちゃんとした画面を作ろうと思ったら、それじゃいけない場合が多いんだけど、ノーライトでも撮れるようになった時に、さらに敷居が下がっちゃったんですよ。製作費だって浮くし。ただ、これは一長一短で、今泉力哉監督が言ってたんだけど、「8ミリ映画の時は音も絵も汚いから、役者の演技が良くなくても見ることができた。だから友達を出しても平気だったけど、今の学生は機材や技術がよくなった分、友達を出してそれで終わりって訳にはいかない。演技がちゃんとしてないとすぐにバレてしまう」と。ただそういう問題はあるにせよ、とにかく技術的な敷居は低くなって、製作本数も明らかに増えたと思いますし、レベルも全体的に底上げされているとは思いますね。

―― そのなかで象徴的な出来事が『カメラを止めるな!』のヒットでした。

松崎 あれは本当に奇跡みたいな話で。上田慎一郎監督は7年ぐらい前から知ってるんだけど、僕は知り合った時、はっきり言って、才能がないと思ってたんですよ。ところが途中から短編が面白くなってきて。僕が3年前に「SKIPシティ国際Dシネマ映画祭」の審査員やった時に、上田監督が『カメ止め』の前に撮った短編がエントリーされてて、それが賞をとったんですよ。その時はすでに「短編の匠」みたいになっていて。トロフィーを渡す時に「次は長編にチャレンジしてください」って言ったのを覚えてます。そしたら、その後が、『カメ止め』でした。「ENBUゼミナール」のワークショップ映画として製作されたわけです。

―― 『カメ止め』の 業界内での評判はどうだったんですか?

松崎 いいものが撮れた感がすごく本人たちにもあったみたいですけど、一昨年(2017年)の11月に6日間だけ公開したら、ものすごく評判がよかったんで、すぐに新宿の「K's cinema」と「池袋シネマ・ロサ」で、翌年(2018年)6月末の公開が決まったんですね。で、年が明けて、公開前に、イタリアの「ウディネ映画祭」に『カメ止め』を出品したわけです。「ウディネ」に同行していたのが、大九明子とか吉田大八とか錚々たる監督なんですよ。その人達が『カメ止め』を見てびっくりして、口コミが拡がったんです。で、2月に「さぬき映画祭」、3月に「ゆうばり映画祭」という、業界人がいっぱい来る国内の映画祭でも「すごい!」ってことになる。これでけっこう業界内がわーってなった状態で、6月の公開に雪崩れ込んでいくわけです。

―― 一般に波及するのにそんなに時間がかかりませんでした。

松崎 これも奇跡のような話なんですけど、新宿の「K's cinema」と「池袋シネマ・ロサ」は両館とも、ネット予約が出来ないんですよ。ネット予約が出来ないと、行かないとチケットが買えない。公開初日に「K's cinema」に行ってみたら、『王様のブランチ』でLiLiCoさんが紹介した効果もあったと思いますが、満員で入れない。それでネットでわーってなって。「K's cinema」 って、84席しかないんですよ。1日3回転が全部満席になった。84席×3回って、「テアトル新宿」だったら1回分ですよね。200数十席の劇場のレイトショーで1週間満員になっても話題にならないんだけど、84席×3回の劇場に、朝から行って入れないとなると騒ぎになる。「ロサ」の方はレイトショーでやっていて、最初はそんなに入ってなかったんだけど、「K’s」に入れなきゃ、ロサに行くじゃないですか。すると「ロサ」も入れなくなるんですよ。「ロサ」は177席くらいだけど、ここもネット予約が出来ないから、行ったのにやっぱり入れないってことになる。実は最初に公開した2つの映画館が、この時代なのにネット予約ができなかったからこそ話題になったし、勝てたっていう。

―― 最後はシネコンの上映までこぎつけますね。

松崎 アスミック・エースという配給会社の人がハリウッドの超大作を見に行ったけど、つまんなくて途中で出ちゃった、と。その足で『カメ止め』を観に行ったら、「面白いな、これ」と。それで、「ウチでこの映画をやらせてくれ」となって、「TOHOシネマズ」に持って行ったんです。普通はスクリーンが空いてないから、そんなに広げられないんですが、ちょうどある漫画が原作の邦画が大コケしたタイミングで、スクリーンがいっぱい空いちゃったんですね。その穴埋めに『カメ止め』が入ったわけです。

―― 『カメ止め』のヒットは偶然の積み重ねなんですね。

松崎 数えていったら10個ぐらい奇跡があります。その結果、興行収入が31億円になったという。ただ、『カメ止め』は作品に力があったから奇跡が起こったわけですけどね。

―― 松崎さんが考える『カメ止め』の功績は?

松崎 『カメ止め』のファンも2通りいて、『カメ止め』にしか興味がない人。『カメ止め』からインディーズ映画の存在を知った人の両方がいるんです。で、『カメ止め』をきっかけにインディーズを観だした人達が、今、映画祭を観に来たりとか、シネマロサに通ったりしています。ポスト『カメ止め』じゃないですけど、そういう映画を自分で探そう、見つけようとしている人達がすごく増えたのはいいことだと思います。それから、作り手にしても、こんなことが起こるんだ!っていう希望ができたのはいいことだと思います。ただ、あの規模のヒットはもうないとは思いますけど。『カメ止め』のようなケースは100年に一度ですよね。映画史って120年くらいだから、映画史上でも初めてに近いレベルだと思います。とはいえ、知恵と勇気とちょっとしたお金の持ち出しでやってるインディーズには、けっこうな救いにはなってるのかな、と思います。今年も春に公開された『岬の兄弟』だったり、昨年の「東京国際映画祭」の「日本映画スプラッシュ部門」で監督賞を獲って、今年夏に公開になった『メランコリック』とか、知恵と勇気のある作品が、好評を集めていますよね。『メランコリック』は、30近いフリーターの男が銭湯で働き始めるんですけど、実はその銭湯は営業が終わったあとに人を殺してバラす場所になっていたという話で。銭湯だから流れた血も洗い流せるし、死体も焼けちゃうじゃないですか。すごく面白いアイディアで、撮影に協力してくれる銭湯が見つかれば、なんとか撮れる作品だけど、逆に大手映画会社だと、通りにくい企画でもあります。インディーズならではなんだけど、『カメ止め』効果もあって、「探せば面白い映画があるんだな」と思ってくれる人が増えたから、『メランコリック』はお客がけっこう入ってて。インディーズ作品に対して、一般の注目度が前よりは明らかに高くなった。それはいいことですよね、応援団が増えるのは。そこは『カメ止め』以前、『カメ止め』以降は、全然、違うと思います。

―― 悪い面をあえて言うとどういうところでしょう?

松崎 そういう人たちを搾取しようという悪辣な人達もいます。31億円稼ぐ作品を300万円で撮れるじゃないかって言い始める人達がいるんです。そういう意味では、製作環境が改善されたという話はないですね。

―― インディーの作品にとって製作費は常にハードルですよね。

松崎 だからと言って、日本のメジャーは儲け本位で、若い映画人を育てる機運も薄い。となると、製作資金にしても、日本のインディーズに注目しているようなルートを見つけて、ヨーロッパの方からお金を集めて映画を撮るとか、いっそのこと、アメリカとかヨーロッパで映画を撮るとか、そういうことも考えた方がいいと思います。深田晃司監督作品にはフランスがお金を出してるし。内田英治監督も、Netflixの『全裸監督』の前に撮っていた作品は、イギリスからお金を引っ張ってきていました。

―― 海外は映画に対する考え方がちがうんですか?

松崎 映画を文化としてちゃんと捉えてる国とそうじゃない国があるんです。ヨーロッパなんかは、映画製作への補助金制度がしっかりしてるし、韓国映画の隆盛だって、国が物凄く補助したからなんです。日本はダメですよ、そういう意味では。インディーズの最大の問題は映画を撮ると貧乏になっちゃうことなんですよね。お金を持ち出すでしょ? スタッフにもろくにギャラ払えない。映画が評判になって、次に繋がればいいけど、なかなか簡単にはいかないので、次に撮る時もまた、同じ仲間がほぼノーギャラで付き合うという状況が続く。この負の連鎖は、物凄く不健全じゃないですか。映画に関わったらタダ働きが当たり前とか、出演料が5000円とか、そういうところがもうちょっと潤ってかないと、僕みたいな周辺部も、困っちゃうんですよ。

―― 打開策は海外資本ですか?

松崎 例えば『全裸監督』なんかNetflixの資本で歌舞伎町のセットとか大々的に組んだんでしょ? お金の規模もスケジュールも全然違うわけですよ。ちゃんと然るべき人と相談して、海外を狙っていく。海外でお金を出してくれる人を見つける。そういうふうにしていった方がいいかもしれないですね。あとは、NetflixとかAmazonプライムからどうやってお金を引き出すかってことはひとつ努力してもいい気はします。武監督と内田監督が『全裸監督』を作ったのはすごいことだと思います。スキームとして、メジャーの映画会社や芸能プロダクションと組む以外の方法が示せたんじゃないかと思います。そうすると山田孝之みたいな人が、ああやって一生懸命に演技をやるわけじゃないですか。

―― 最近では有名な俳優がインディーズ作品に出ることもありますよね。

松崎 そこもインディーズの環境が変わってきてることなんですけど、俳優もインディーズ作品にけっこう出演するようになってきています。ブランディングもあると思うんだけど、俳優の側にも、本当にやりたい演技ができるか、型にハマった演技、メジャーの映画とかTVドラマに出てやってるだけでいいのか?っていう葛藤はあるわけですよ。今年の「ゆうばり国際ファンタスティック映画祭」で観客賞を獲った『いつくしみふかき』って作品があるんですけど、それが「信仰」や「人間の原罪」などを扱った、堂々たる映画なんですよ。監督は大山晃一郎というプロの助監督や劇団なんかもやってる30代の人で。この映画の主役が渡辺いっけいさんなんですよ。他にも金田明夫さんとか、有名な俳優が出てるんです。渡辺いっけいさんはTVドラマなんかだと、3枚目の役が多いじゃないですか。『いつくしみふかき』では、他では見られない“悪の顔”の渡辺いっけいが見られるんですよ。それはやっぱりこういう映画に出ない限り、他ではなかなかできない演技ですよね。あとは津田寛治さんなんかも物凄く積極的にインディーズを応援していますよね。斎藤工くんもそういうところがある。そうやってメジャーとインディーズの垣根が壊れてるところはたしかにありますね。

―― 話は変わりますが、ネット配信に脆弱性があるとしたらどこだと思いますか?

松崎 新しいパイが増えるのはいいんだけど、映画の墓場になる可能性があるということです。今、若い人が映画館に行かないって問題になってる。これは当たり前で、僕らの世代って、テレビをつけてたら洋画劇場をやっていて、「なんだ、この映画、知らないぞ」って観てると、淀川長治さんの解説まで聞いて、「なるほど~」みたいな流れがあったんですね。そうやって偶然、映画に出会うんですよ。あと2本立てを観に行って、お目当ての映画はつまんなかったけど、お目当てじゃない方は面白かった、と。こんな映画があったんだっていうようなことが日常にゴロゴロ転がってた。ところがテレビの洋画劇場がなくなって、2本立てもなくなって。まだレンタルビデオには、パッケージが面白そうだから、お目当ての映画のついでに借りていったら、「これ、面白い!」ってことがあったんだけど、配信ではそれが起きないんですよ。配信はタイトルを増やすために、いっぱい映画を買ってるんですけど、実は誰も見てない映画が山のようにあるんじゃないか、と。

―― 2本立てやレンタルビデオみたいに「見ないと損する」という気持ちが働かないですからね。

松崎 だからこそ映画に導く案内役が必要で。淀川長治さんだったりとか荻昌弘さんとかがテレビで映画解説をやっていた頃は、「淀川さんが言ってたから観てみよう」となってましたからね。今だと町山さんがそうなんだけど、町山さんを好きな人って映画マニアなんですよ。一般の人は町山智浩のことをそんなに知らないんですよ。だから、『映画秘宝』がよく言ってるように、映画会社がまとまってスポンサードして、洋画劇場をどこかのテレビ局で作れ、と。そこで町山さんに解説をやらせろ、と。それは遠回りのようで近道なんですよ。映画との出会いの場がないから、若い人は映画館に行かないんだよね。

―― 音楽配信はプレイリストを作る人がビジネスとして成り立っています。

松崎 映画はいま、そういう状況がないじゃないですか。さっきの『カメ止め』みたいに、「ブランチ」のLiLiCoさんが薦めてるから観たって人も居るわけだし、映画のガイド番組みたいなものが、もっとちゃんとあった方がいい。インディーズにしても、いま、『カメ止め』から入った人が、『カメ止め』みたいな作品を追い求める現象があるからいいけど、これもきっちりどこかで誰かがガイドをすることがないと、将来的には厳しいですよね。

―― 案内役を松崎さんがやるのはどうでしょうか?

松崎 やりたいですね。YouTubeでやろうかって話はちょっとあって。そこではメジャーの映画の紹介もしないことはないんだろうけど、メジャーの映画をただ紹介したって面白くもないし、監督が知り合いでも、メジャーだとインタビューとか取りにくい。インディーズだったら、例えば上田慎一郎にだって、「30分、時間をくれ」って頼めるわけじゃないですか。何か新しくガイドが必要な気がしますね。『カメ止め』に出てる人達が「シネマ・チラリズム」といって、インディーズの方を招いて話を聞いたりしてるんですけど、そういうのが1個だけじゃなくていくつかあった方がいい気がします。

―― 映画祭の役割はどうなんでしょうか? 現在の映画祭はインディーズ作品の登竜門としての役割は果たせているのでしょうか?

松崎 手前味噌になりますが、「田辺・弁慶」みたいに“賞”を獲れば、「テアトル新宿」での上映に直結したり、「SKIPシティ国際Dシネマ映画祭」みたいに、海外からの審査員が来るような映画祭では、それがいいきっかけになることがあると思うんですよ。「PFF」も、スカラシップで新作が撮れたり、あそこで見た人が声を掛けて劇場公開に繋がったりもしています。日本では、「映画祭」が“映画作家”や“映画人”を育ててるような部分は、少なからずあると思います。ところが、なかには「映画祭ゴロ」みたいな人がいて、自治体を騙してお金を引っ張って、映画祭をやったけど、全然中身が伴わないということもある。どういう映画祭なのか、必ずきちんと見極める必要はあると思います。僕も一昨年の暮れに29年ぶりに自分で映画を監督したんですよ。出せる映画祭にほとんど出して、入選したら、ほぼほぼ行ってるんですけど、まあひどい映画祭もある。そういう意味では映画祭のガイドもあった方がいいのかもね。

―― 2019年は11月22日から24日まで、金土日の3日間、「第13回田辺・弁慶映画祭」が開催されます。

松崎 重ねて手前味噌になりますが、「田辺・弁慶」はほんとにいい映画祭だなぁって、最近しみじみと思いますね。短編を出品できる映画祭って、日本にはいっぱいあるんですけど、中編・長編となると、出品できる映画祭って、実は少なくて。「PFF」のスカラシップにはかなわないかも知れませんが、入賞すれば、まず「テアトル新宿」、それから大阪の「シネ・リーブル梅田」で上映できるアドバンテージは、大きい。そうするとみんな応募するじゃないですか。今年も例年並みの応募作があって、そのなかから9本が選出されました。ジャンルも多岐にわたっています。監督の平均年齢も30以下で、若手の監督が中心です。東京や大阪から飛んで来て見る価値ありというか、日本映画の未来がこの中にあると思います。もちろん「PFF」とか他の映画祭でも良いんだけど、いま、映画を撮ってる人も余裕があったら、「最先端ってなんだろう?」っていう視点で、観に来ると良いと思います。まあ「田辺・弁慶」を開催する和歌山県田辺市は、なかなか遠いんで来にくい方が多いとは思いますが、撮っている人はやっぱり、ライバルを知ることも必要だと思いますので。

―― このサイトは俳優志望の方も多く見ています。

松崎 俳優の方も色々な映画祭に出かけるのは必要だと思います。中身の伴わないプロモーションは嫌がられるけど、映画祭でいい映画に出会って、その監督と知り合いになりたい、とか、そういうことがあってもいいと思います。その監督の映画に出られるかどうかは別にして、そういう動機は必要だと思いますね。気に入った映画があったら、直接、監督に「素晴らしかったです」と伝えられた方がいいと思うし。俳優でも映画祭を、そういうふうに使った方がいいですよ。

―― 最後に松崎さんが期待する若手監督を教えてください。

松崎 さっき言った『メランコリック』は田中征爾くんが監督と脚本と編集をやっていて、主演の皆川暢二くんがプロデューサーを兼ねてて、殺し屋役の磯崎義知くんがアクションコーディネーターを兼ねてる。この3人が軸で映画を作っているんですよ。だから3人でほんと知恵を出して作った映画ですね。それから、もう若手っていうにはあれだけど『岬の兄弟』の片山慎三監督なんかも、これから注目できるんじゃないかな。あとは『老人ファーム』って映画があって、これはいくつかの映画祭で注目されて、今年、ユーロスペースで公開したんですよ。三野龍一くんが監督で、老人介護施設で働くことになった若い子が、自我が狂ってきちゃう話なんだけど。よくこんな題材で面白い映画を作ったな、と思いますね。あとは「城西国際大学」OBの高橋賢成監督の『海抜』という作品が、昨年「東京国際映画祭」の「日本映画スプラッシュ」で掛かった後、海外の映画祭とかを回っていて、最近劇場公開も決まりました。高橋監督は「城西国際大学メディア学部」の掛尾学部長の教え子ですよ。ちょっと暗いドラマなんだけど、こんな立派な映画が撮れる人だったんだ、と思って。次に何をやるのかわからないけど、期待しています。それから「田辺・弁慶」関係で言えば、沖田修一監督や今泉力哉監督なんかを、この映画祭出身者を指す“田辺系”って言うのは些か気が引けるんだけど(笑)、明らかに“田辺系”って意味では、柴田啓佑監督が今年『あいが、そいで、ごい』と『喝風太郎!!』の2本の長編を公開しました。ワークショップ映画だった『あいが、そいで、ごい』の後の『喝風太郎!!』は本宮ひろ志さんが原作で市原隼人さんが主演で、柴田監督は1本1本ランクアップしていっている感じはありますね。まあ色々話してきましたけど、私の今のイチオシは、今年の田辺のコンペ作品を通った9作品の10人の監督です。1本共同監督の作品があるんで。この10人をまず「田辺・弁慶映画祭」のホームページで見てください。
(取材・構成:大作昌寿、森内淳)

田辺・弁慶映画祭
田辺・弁慶映画祭 公式サイト:http://www.tbff.jp


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